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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(オ)649号 判決 1961年1月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人一条清の上告理由について。

しかし原判決は、挙示の証拠により原判決(一)ないし(五)の各事実を認定した上、これを綜合して、上告人が訴外大谷地正治に対し上告人を代理して所論調停をなす代理権限を与えた事実を判示しているのであつて、原審の右認定、判示は挙示の証拠に照し首肯し得られなくはない。

民事調停に準用される民訴八〇条一項の代理権の証明に関する規定は、将来に向つて代理行為をする場合の規定であつて、既になされた代理行為について、その権限があつたか否かを判断するに際しては、必ずしも委任状その他の書面の有無にとらわれることはないと解すべきであるから、原審が前記の如き証拠を総合して前記の如き判断をしたからといつて所論の違法ありということを得ない。

また、訴外大谷地正治が原判示調停において上告人の代理人兼利害関係人として関与した事実は、原審において当事者間に争いがなかつた事実であり、右代理許可の裁判がなかつた事実は、上告人の主張も立証しなかつたところであるから、当審において新しく主張することは許されない。

次に民事調停規則八条は、当事者の出頭できる場合に代理人を出頭させても、それを違法とする趣旨とは解されず他にこれを違法と解さなければならない根拠を見出し得ないから、原審が右代理人によつてなされた調停に効力を認めたとしても所論の違法ありとは認められない。

その他の主張は、すべて原審が適法にした事実認定の非難に帰するから採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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